競輪コラム

KEIRINグランプリ2020レース回顧

「ヒトは、強い。」

2020年(令和2年)、一変してしまった世界で前を向いて進むために、信じていきたいヒトの「強さ」。昨年末の『KEIRINグランプリ』で掲げられたキャッチフレーズには、公営競技で唯一、ヒトの肉体で勝負する競輪を通じて「強さ」を感じ取ってもらいたいとの思いが込められていたはずだ。

アナタは輪界の年間ナンバーワンを決める戦いに何を感じましたか?

12月30日(水)に平塚競輪場で行われた第36回『KEIRINグランプリ2020(GP)』を振り返ってみよう。

昨年の11月23日(月・祝)に行われた第62回朝日新聞社杯『競輪祭(G1)』決勝終了後、GP出場選手が決定した。今年、S級S班として活躍している9名はこのとき決まったのである。

①番車はその競輪祭でG1初優勝を果たして出場を決めた“競輪王”、郡司浩平選手(神奈川・99期)。2年連続の2回目となったが、地元の平塚開催ということで1回目とは気合いの入り方が違っていたはずだ。勢いそのままに、元競輪選手の父・郡司盛夫さんの前で優勝を目指す。

②番車は、本来ならば東京五輪でケイリンを走ってから競輪に戻ってくるはずだった脇本雄太選手(福井・94期)。五輪延期が決まった後、6月から競輪に復帰したのだが、すぐに第71回『高松宮記念杯競輪(G1)』で優勝してGP出場を決めると、10月の第29回『寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメント(G1)』でも優勝。24戦17勝、勝率70%という戦績を引っさげての参戦となった。競輪祭で小指の骨折と肩の脱臼があったが、戦える状態に戻したとのこと。3年連続3回目にて「先行でGPを獲る」という夢は叶うのか。

応援している広島東洋カープのイメージカラーだから好きだという赤の③番車は松浦悠士選手(広島・98期)。2年連続2回目の出場は8月開催の第63回『オールスター競輪(G1)』優勝で決めた。競輪祭は準決で失格となってしまったが、それ以外のG1、G2すべてで優出という突出した成績で獲得賞金も約1億4,700万円と圧倒的。キャリア最高の1年をどう締めくくるか。

④番車はデビュー18年目にして初のグランプリ出場となる和田健太郎選手(千葉・87期)。1年を通して安定した成績を残し、3度のG1決勝進出を果たした。獲得賞金7位でGP初出場。何度も連携してきた郡司選手の番手から機をうかがう。

⑤番車は松浦選手との「中国ゴールデンコンビ」で競輪界を大いに盛り上げた清水裕友選手(山口・105期)。2月の第35回読売新聞社杯『全日本選抜競輪(G1)』で優勝して早々に3年連続3回目のGP出場を決めた後、7月の第16回『サマーナイトフェスティバル(G2)』でも優勝してビッグ2勝。しかし後半は急激に調子を落としてビッグレースの優出はなかったが、年末にどこまで仕上げてきているだろうか。

⑥番車は獲得賞金9位で滑り込んだ守澤太志選手(秋田・96期)。デビューからこれまでに記念(G3)優勝1度だけでGP初出場という“伏兵”だが、こういうチャンスをものにしてきたからこそ、GPの舞台に立てている。

年の前半は結果を出していたが、後半は落車続きで苦労の連続。それでも獲得賞金4位で8年連続11回目のGP出場を果たした平原康多選手(埼玉・87期)が⑦番車。出場回数11回は2位タイの記録だ(1位は神山雄一郎選手の16回、2位タイで村上義弘選手の11回)。悲願の初優勝となるのか。

脇本選手同様、五輪延期で競輪復帰となったが、思うような結果が出ず。G1タイトルは獲れなかったが、獲得賞金8位でGP出場となった⑧番車・新田祐大選手(福島・90期)。6年連続7回目。五輪のメダルを目指して鍛え上げてきた脚を年末の大勝負で爆発させる。

最後の⑨番車は1年間、白枠で走り続けてきた『KEIRINグランプリ2019』の覇者でディフェンディングチャンピオンの佐藤慎太郎選手(福島・78期)。新田選手、守澤選手との北日本連携で連覇を狙う。

以上、9選手の戦い。ちなみに前年のグランプリから7選手が連続出場を果たしたのは2012年(平成24年)以来となった。

出場選手決定時の予想では脇本選手と平原選手が単騎になると見られていたが、12月22日(火)の共同記者会見にて、2人がラインを組むと発表されて会場がどよめいたのである。

さて、当日。12月30日(水)の16時30分。矢沢永吉の「乗ってくれ♪」の歌声に合わせて敢闘門から選手が登場していく。愛車を発送台にセットしてまたがり、各々いつものルーティンで気合いを込める。ファンファーレから誘導が近づき、号砲一発。遂にグランプリの幕が開けた。

①郡司、③松浦、⑥守澤が飛び出すが、制したのは③松浦。③松浦-⑤清水、①郡司-④和田、⑧新田-⑨佐藤-⑥守澤、②脇本-⑦平原の並びで周回を重ねる。後に脇本は「自分の中で初手は理想の形でしたね。新田さんの後ろから進めたかったので」と語っている。

競輪における全レースの中で最も競走距離が長い、2825m。400バンク7周。残り2周の赤板となったところで①郡司が車間を切ってけん制を始める。後団の②脇本が動いたのは2コーナーからだった。打鐘で出切った後の2センター、インで待ち構えていた③松浦が番手飛びつきを図る。なんとか凌ぐ⑦平原。

②脇本-⑦平原、③松浦-⑤清水、①郡司-④和田、⑧新田-⑨佐藤-⑥守澤の順で最終ホームを抜けると、1コーナーから出て行こうとしたのは①郡司だった。バックで⑤清水がけん制するも外を抜ける①郡司。そこに合わせて出た③松浦だったが、①郡司と共に後方へ下がってしまった。すかさず3コーナー手前で内を突く⑤清水。そのまま踏み上げるが、2センターで⑦平原の強烈なけん制を受けてしまう。最終コーナーでその空いたインをするするっと駆けていったのは④和田。タレる②脇本、伸びる④和田。そのままゴールへと突き抜けて……

④和田健太郎選手、GP初出場で初優勝。

2着は残した②脇本、3着は和田の後ろを追ってきた⑨佐藤となり、三連単④-②-⑨は22万1,650円というGP史上最高配当を叩き出したのである。

それだけの高配当なのは和田選手に期待するファンがかなり少なかったということ。力の差を考えればかなり不利な状況であったのにもかかわらず、勝てた和田選手にヒトの「強さ」を感じたファンも少なからずいたのではなかろうか。

年末最後に全力でもがき合い、最後の最後で勝利をつかみ取って「HERO」になる選手は誰か。今年の『KEIRINグランプリ2021』でも、出場するすべての選手の「強さ」を信じて応援したい。

ウィンチケット編集部
WINTICKET(ウィンチケット)のコンテンツ編集チーム。初心者でも0からわかる記事を150本以上執筆した他、グレードレースを中心とした「WINTICKETニュース」、ABEMA 競輪・オートレースチャンネルでの番組の見どころをまとめたレポート記事の執筆を担当。

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